ご存知ですか? 手ごねハンバーグがつないだ親子の話

「いらっしゃいませ!」
振り返るとそこには見慣れた姿の男性が1人立っていた。
「お久しぶりです!お元気でした?」
「あぁ、ちょっと忙しくてね」
彼は少し目尻を下げて頬を掻きながら腰に巻いているウエストポーチをぎこちなく触っている。
いつもの彼と違うのに気づいたのは彼の態度ではなく、いつも一緒にいるはずの人だった。
「今日、おばあちゃんは?…」
「あぁ…実はさ…」
一瞬だけ口を閉じた彼は何かを決意したようにして話し始めた
。
月に一度、いつも一緒に来店されていたおばあちゃんは彼のお母さんだった。
しばらくの入院生活を終えて、昨日天国に見送ったらしい。
それを聞いた私は何と言えば良いのか分からず、少しの沈黙の後に「そうだったんですか…」と言うのが精一杯だった。
「また元気になって、一緒にハンバーグを食べるのを楽しみにしてたんやけどね…」
肩を落としている彼は「母は長い間1人住まいでね…母にはあの年までいっぱい寂しい思いをさせて来たから…」と力無い声で言った。
彼のお母さんは、このお店に来る度に目を細めてニコニコと笑っていたのが印象的だった。
彼は、お母さんがヤケドしないように、洋服の袖が汚れないように、様々な事に気を使っていつもお世話をしていた。
しかし、その横で子供の様な無邪気な笑顔で「美味しいなぁ美味しいなぁ」と喜んでいるのを何度も見た。
私は今更あの笑顔に隠された感情を知り、胸が締め付けられる様な気持ちになった。
2人で食べたハンバーグも、一緒に座っていたカウンター席も、あのゆったり過ぎて行く時間さえも。
もう戻って来ない。
…私達は、お客様にとって思い出の味になる様に日々願っています。
私が言えるのはこれだけだった。
「…マスター!ありがとう!お陰さんで良い親孝行できたよ」
彼は、目に涙を浮かべていた。
キラリと光った涙と、誰よりも輝く無邪気に笑うおばあちゃんのことを
私は一生忘れないだろう。
思い出のハンバーグ
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